2020年のフレッシュ-その4- 「自分で自分の風に乗って」

ラスト7時間。

硬い舗道を駆けていく。飯能から日高を抜け、ついに華の都東京へ。といっても日曜ド深夜2時の青梅だ。この辺で見かけるのは飲んだくれやこんな時間になぜか犬の散歩をさせているサンデーピープルくらいしかいない。今は無い東芝青梅事業所の通りや、小作のアンダーパスは、2014年の白馬・木崎湖600で通って以来の勝手知ったる道だ。懐かしさに浸る。

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 多摩川を渡った先にある滝山街道の満地トンネルを登る。この近くには東京都唯一の火薬類試験が行える工場があり、最近知ったのだが警視庁の弾薬製造所は「秋川工場」として秘密裏にその側に所在しているようだ。*1といってもグーグルマップに載っているくらいなので、いわば公然の秘密なのだろう。

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このトンネルを通ると「帰ってきた」という気持ちになる。

 八王子・高尾も馴染みの深いところばかりなのでエモめな道だ。あきるのIC付近の交差点で、ふと横を見るとサマーランドへの案内看板が見えた。パラソルの下ソーダとかシュワシュワポンする季節も終わり、ひたすらに寒い。サマーランドに行きたいけど、やっぱ今じゃないよな。トンネルを抜け、戸吹町の交差点から高尾街道を走る。

 

 この時、残された制限時間から考えると時間の余裕もなく、平均時速15km/hで考えた際、22時間通過予定地点にはほぼちょうど着く計算だった。アップダウンに難儀しつつ、大戸交差点から城山へ。いよいよ神奈川県。城山ダムを抜けて、ようやく見慣れたコンビニの風景が映り込んだ。

PC5 ファミリーマート津久井太井店 03:50

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使えるものは有効活用します。だれもいないので。

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ここでは10分の休憩を取る。せいぜい最低限のカロリーを取ることで精一杯。何をトチ狂ったか寒いのに冷たいものを買ってしまった。300円くらいするイチゴみるくを一気飲みする贅沢。普段コンビニで買い物する時には躊躇するものを遠慮なく買うのがささやかな幸せだ。あたたかいものを飲めば良いのに。その代償として、胃が冷えてちょっと気持ち悪くなったことは言うまでもなく。再出発の時、クリートをはめる音だけがしんとした空間に響き渡る。

 いやらしいアップダウンを2回やり過ごした。この辺りは本来相模湖が見えるはずだ。穏やかな陽光を浴びながらスワンボートに乗って時間も忘れて遊び呆けていたいが、今は10月の午前4時半。ふと西の空を見ると、僅かながら色彩を感じる。ため息の後の、インディゴブルーの果て。明けそうで明けない夜が続いていく。

 相模湖駅前から甲州街道に合流し、そこからはほぼ上り基調の一本道。上野原の近くで、こちらに向かってくる自転車が見えた朝靄越しに見えた。1台だけではなく5台も。僕らは石和温泉へ向かうが、彼らは日本橋目掛けてすっ飛ばしていく。すれ違い様「気をつけて!」と声をかけ、健闘を祈る。

 そうこうしているうちに、雨はすっかり止んだことにふと気づく。早く着いて欲しい。すばやく駆け抜け安堵したい。頑張っても時間の貯金がなかなかできないのは、栓をしないまま湯を張ってしまった浴槽のよう。オールなんてここ最近した記憶がない。やたら耳に音が響くし、こころとあたまが分離しているみたいな気分だ。

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道をただ道なりになぞり続ける

 兼定さんは大月市街の手前で「60秒休む!」と言って、立ったまま自転車のハンドルに頭を預け始めた。呼吸の度に肩が大きく揺れる。睡眠に全集中。65秒ほど経ってか、「OK!」と声を上げたところで、再スタートを切った。安定感のあるたなさんとならさんはまだまだ元気そう。おれはもうだめです。

 

22時間チェック ローソン大月下初狩店 07:00

 やっとたどり着いた。予め計画していた通りだ。ゴミ袋で受け止めてほしいくらい雨で身体がくさい。イートインで胃腸対策のヨーグルトとカロリー対策のおにぎり、ホットカルピスを買う。合理的だと思う。グルメのことは頭にもうない。

 レシートをゲットした後、最後の一息ということで記念撮影。前方の顔色と最後方たなさんの顔色を比較すると同じことをしている人のようには見えない。

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22h記念撮影。顔がぐったり。

 

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いよいよラスボスの笹子峠に向けて登る。ローテーションで先頭を走っていた時はよかったのだけれども、最後尾についたところで完全に千切れてしまった。先行しているみんなに声を掛ける気力もなく、みんなが遠くなっていく。なんでこんなところに家を建てるんだ?なんでこんなところに警察署があるんだー!*2と心の中で悪態をつく。

 途中で気づいていただき、最後は頂上まで先頭で走らせてもらった。申し訳ないし、ありがたい。頂上で休憩の際に水を飲んだら冷静になることができた。当たり前だけど、フレッシュはひとりでは完結しないとひしひし思う。東の空は気づいたら青かった。

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 笹子トンネルから最後のPCまではひたすら下るだけ。これまでの350km弱の道のりがすべて報われるようだった。あたたかいトンネル。乾いた路面、あっという間に、標高800mの発射台から最大瞬間の速さで景色が流れていく。自分で自分の風に乗って。甲府盆地が見えた時のタイムワープ感といったらたまらない。

 最終PCのセブンイレブンが左手に見えた。時間もちょうど良い頃合いだ。とりあえずびしょびしょのマスクを身につける。カレーヌードル*3を選んで、レシートをゲット。ふっと肩の力が抜け、口元が緩む。店の外で待っていたメンバーと声をあげる。やりきったことで、これまでの辛さが全て報われていい思い出になった。だからブルベとか続けるんだなぁと思う。

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完走した4人で記念撮影。やっぱ1人足りないのはさみしいから、もし走ることがあったら、今度は5人で辿り着こう。

「お風呂に入ってはやく人間になりたい!」と言ったけれど、家に帰れば、少し歪になってしまった日常生活が待っている。ほんのちょっと、この自由な時間を味わっていたいとも思った。

 

 

 

 

*1:https://blog.goo.ne.jp/1940sachiko/e/751dd1d2b2af8b4b5db5a2f34f1cfcc3

*2:大月警察署はなぜか市街地ではなく坂の上にある

*3:山梨にらゆるキャン△ゆるキャン△ならしまりんという発想。ちなみにしまりんはこんなことしないとおもう。